そっと波打つ心地よい音に

   俺の心の中の汚いものが流されてゆく。





   
ほんの少し、君と











   俺は最近意味も分からないままイライラしている。

   部活の真っ最中、集中して頑張らなきゃいけない。

   そんな事は分かりきっているけれど・・・。



   「さーんvVvV」


   ・・・・・・・またか。

   最近、我が六角テニス部の連中は

   紅一点、マネージャーの に夢中なようだ。

   休憩中には彼女の周りに必ず誰かしらがいて、

   帰りは団子状態に皆くっついて帰っていく。



   俺はいつもその光景を遠くから見つめているけれど、


   馬鹿馬鹿しいと感じることしか出来ないでいる。





   「――サエ ?? どうしたの ? 」

   ふと気がつくとちゃんは俺の目の前にいて、手をひらひらと振っている。

   他のレギュラー達からの視線が痛い・・・。




   「どうもしないけど――」


   どうしたんだろう、我ながら冷たい声だな。


   何を怒っているんだ、俺は。

   吐き気すら催している自分がいる。





   「体調悪いから帰るよ。」

   「大丈夫っ!?」



   温かいちゃんの手が俺へ伸びてくる。




   
   「俺の事はほっといてくれて―――いいから。」





   ちゃんの手を払いのけて、

   俺は顔をあげないまま部室へと歩き出した。



   「そっか・・・。――ごめんね。」


   ちゃんの震える声は波の音と共鳴して。

   

   鳴いているのだろうか。









   部活を抜け出して、学校のすぐ前にある海の前に立つ。


   先ほどよりも音が近い。





   ざざん    ざざん   ・・・





   太陽はもう海に呑まれつつある。

   素足を通して感じるのはさらさらとすべる砂と

   夕焼けを吸った冷たい空気。



   「・・・・・冷たい。」


   「今日のサエの事 ? 」



   覚えのある声に振り返ってみると、   

   一人きりで立っていたはずの浜辺にいつの間にか

   もう一つの影が伸びていた。



   「ちゃん・・・ ? 何で此処に ?」



   ちゃんは素足で砂を蹴るように一歩ずつ進んで

   俺の隣にくるとそのまま座り込んだ。 


   

   「んー、オジイがね、なんでぇ追いかけないのぉ?って」



   ちゃんが顔真似までしてオジイそっくりに言うから

   俺は思わず吹きだしてしまった。






   「あっ 笑った。」


   「え ? 」





   ちゃんは微笑って俺の方を見た。



   「最近のサエは笑ってなかったから」


   「・・・うん。」





   君の声は波の音とよく鳴りあう。


   心地よい潮騒。

   
   俺の中に溜まっていた全てのどろどろしたものが

   流されていくよう。



   

   「サエは、何を怒ってたの?」


   「――秘密。」



   ぶーぶー言うちゃんの横に俺は腰掛けて、


   そっと波の音に耳を傾けた。



   「もう、夏だね。」

   「うん。」






   「また、一年過ぎていくんだね。」

   「今年は――どうなるんだろうな。」






   二人の間に気まずい沈黙はない。


   波の音は止まることを知らず、優しく静かに鳴き続ける。





   



   不意に手に触れてしまって。










   謝らない
         逃げない


  


   ちゃんの横顔
         サエの細くて長い指






   俺の中の陳腐な言葉では言えない
         いつも触れたいと思っていた。 
             










    ただ一つだけ。






    ほんの少し、君と






    この穏やかな時間を




    もう少しだけ。


    もう少しだけ――。












初書きのサエ夢です。

すみません、最近サエブーム到来で書いてしまいました。

しかも続くんですね。

どうでもいいですが、私はいちゃいちゃ系よりこう
くっつくのくっつかないの!!と焦らされる系が大好きです。



2005 6/8 瀬尾 亜梨子